2024年10月15日火曜日

スナッチャー PC-88版(3)

 ゲームが映画を超えた瞬間

SNATCHER

2)の続きです。

私が、まだ大学生の頃の話である。
卒業が確実なものとなり、就職も決まり、自動車免許も取得し、例のバイトも順調な頃の話である。
久々に、大学を訪れた私は、お世話になっているゼミの教授の元を訪ね、就職の報告をしていた。

以前、年齢を尋ねた際に50代半ば、との答えだったその教授は、就職を大層喜んでいただき、研究室にて、コーヒーを振る舞っていただいた。

しばし、とりとめのない話をした後、思い切って、切り出してみた。

「実は、ゲーム会社に就職してみたくなったのです。」
「ふむ、それは何でだい?」

世はバブル末期の超売り手市場、高校生だったら先生にぶん殴られもおかしくない所業である。
ロマンスグレーの教授は、落ち着いた様子で、続けた。

「話してごらん。」




ゲームをプレイして驚いたのがリアクションの多さ。

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ちょっと笑ってしまう話がら、グッと来る話まで盛りだくさんです。

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悲劇のヒロイン、「カトリーヌ」。だが、
思わず「○の証明」を見せてしまうのだった。

例えば当時、堀井雄二氏の「軽井沢誘拐案内」のリアクションの多彩さが有名でした。
一度、各方面を聞いて回ったあと、もう一度その場所を訪れると「そう言えば、思い出したんだけど・・・。」と、更に突っ込んだ情報を聞ける様になるというものでした。
これを「軽井沢~」では、2章に分け、計4回情報収集が出来ました。
そして、各方面で、「もう、これ以上はわからない~」と、言われると情報収集が完了したので、どこかへ次のステップへのフラグが立った目印になっていました。

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しかし、「スナッチャー」です。調べる所は多く有りますし、答えも多彩です。
設定も多いので必要の無い豆知識、設定の解説もばんばん喋って来ます。

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ここは一つ、本当に「ランナー」の一人となった気持ちで、情報の取捨選択を行いましょう。

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AVGに慣れていない方のファーストプレイは、次のシーンへの情報(住所等)を入手した時点で、切り上げるくらいの勇気が必要です。
そうそうハマるような事はありませんが、実際の捜査でも、「人」・「場所」で、得る情報は無限にあると思われます。

新しい場所の情報を得た。

相手の顔の特徴が解った。

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・・・くらいで、進んでいけば、スピード感あふれるスリリングな展開を味わうことが出来るでしょう。

また、AVGに慣れている方、周回プレイの方は、より、突っ込んだ捜査がオススメです。
特に「アルタミラ」・「ジョイ・ディビジョン」前の雑踏。また「アウターヘブン」内のお客のコスプレの出自を調べるのも面白いですね。

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また、ジャンカー本部内でガウディーに情報を聞きまくったり、シューティングブース(ジャンカーズ・アイ)で訓練するのも面白いです。

特にゲームと関係ないのですが、別居中の奥さん「ジェミー」をデートに誘ったり、カトリーヌに「○の証明」を見せるのも面白いですね。

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あ、この辺りは、「PCエンジン版(ミニ版含む)」が、さらにブラッシュアップされており、オススメです。

PCエンジン版の話が出たので、それぞれの「スナッチャー」の移植版の解説をしていきたいと思います。

PC-88版:今回、解説に使ったバージョン。PCエンジン版との違いは、ACT3が無い!・・・ということに尽きますが、ある意味、「ミロのビーナス」(腕が無い彫刻)「サモトラケのニケ」(顔・腕が無い彫刻)のように、ACT3が無いことによるある種の潔さがあり、1つの作品として完成度はむしろ高い感がするのは私だけでしょうか?

個人的な感想として、「小島監督のAVG作品」は移植よりも「初期バージョン」にこそ価値があると感じるのですが、如何でしょうか?

「ポリスノーツ」にしても、コンシューマー機の移植版のオープニングは、発端となった事件のあらましが解りやすくなっており、好感が持てますが(こちらはコナミの所為ではないのでしょうが)外注のアニメパートが余りにも雑です。

特に、「ロレイン・北条」などは、PC版では年齢を重ねても品のある美しい顔立ちの方ですが、アニメだと「誰?」というレベルです。

POLICENAUTS
PC-9821版:主人公「ジョナサン」の元妻
「ロレイン・北条」

POLICENAUTS
コンシューマー機版、一発で「ロレイン!」と、
言い当てたジョナサンて凄い!
僕なら取りあえず「誰?」と聞いただろう。

おっと、話題が逸れました。
こちらは、PC-88というハードが希少となっている事や、FDの状態(高温によるカビの発生等)により、遊ぶことは困難となりつつあります。(いかがでしょう?EEGさん?)

MSX2版:FDとSCCカートリッジ(注:1)がセットになった商品。SCCの音は良く出来ており、むしろこちらの音の方が良く似合っているのでは?と、思う曲もあるくらいです。

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MSX2版は良く出来ているのだが、画面が少し
削られている。この場合、局長の後ろの窓からの
「100万クレジット」の夜景が見えなくなっている。

こちらも、上記の理由により、現在では遊ぶ事は困難となりつつあります。

PCエンジン版:CD-Romの大容量を活かして、豪華声優陣が喋る!

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遂に「ACT3・JUNK」が追加!
良いのは良いのだが、「ACT1・2」の様な、骨太の捜査を期待していた自分には、「立て板に水」過ぎてちょっと肩すかしを食らったような感覚がありました。(注:2)

MEGA-CD(海外のみ)版:以前話したようなシーン追加もあり、捨て難い部分もあるのだが、音楽(オリジナル?合っていない)・パロディーシーン・用語の改変がある。
日本語で、ちゃんとしたモノをMEGA-CDで出してくれていれば・・・と、メガドラユーザーだった身から、思ってしまう。

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PlayStation版:これは・・・。

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「残念」
としか言えない移植。
OPにマニュアルのマンガでランダムの「ハンターだ。」のシーンと、ジェミーとギリアンの会話シーンを中途半端に再現
・・・だが、壊滅的に取って付けた様なCG。勿論喋らない。字幕も出ない
ゲームの解像度がPCエンジン版より低い。

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アウターヘブンのキャラがコ○ミキャラに・・・。
リ○の胸が隠れている。(これは、現代ではしょうがないか・・・?)
アリス(犬)の残虐シーンが隠れている。
○ルグのシーンがモザイクだらけ。
・・・一体、何のために移植されたんじゃ?
小島監督が「遊ばないで」というのも解ります。

SEGA SATURN版基本は「PlayStation版」に準拠。(残念)
が、モ○グのモザイク等は無くなりました。ラストでバトルシーンが増えています。

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PCエンジンmini版:満を持して発売された「PCエンジン・ミニ」。

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突然発表されたCD-Rom2移植タイトルの中に「スナッチャー」の文字が!
期待と不安が入り交じる中、通しでプレイ。
今の所、○サの胸以外大きな改変なし!
現在遊べるもので「最良」の選択であると思われます。
他の収録ソフトも現代の基準に合わせて細かな修正を行っているようですが、壊滅的な修正はありませんでした。担当者の愛すら感じる商品。

遊びたい人は、価格が落ち着いている今の内に購入するのが吉でしょう。



さて、閑話休題。



実際にゲームをプレイしていると気付くのですが、このゲーム、実は骨太の推理物なのです。

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「ブ〇ード・ランナー」や「〇ーミネーター」の様な外観は、本当にオマージュに過ぎません。

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突然目の前に現れた死体。しかし、怯んではいけない。
彼らの無念を聞き取るのだ!

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明らかになる衝撃の事実。伏線は多くあった。
だけど、本当に驚きました。

通常、そんなビッグタイトルのオマージュを行うと、再現のみに力を入れてしまい、内容がおざなりになってしまったり、ストーリー自体が原作の方に引っ張られて、単なるサイドストーリー的な作品と化してしまいがちですが、そこは流石「小島カントク」、推理・科学・医学的知識等を総動員して、8ビットAVG中最高峰のストーリーを破綻なく紡いでゆきます。
それでいて、重くならず、軽妙なギャグも挟み込んで来るセンスは、メタルギア等で見せた「MSXノデンゲンヲキレ」的な、「これは、映画じゃない「ゲーム」なんだ!」と、逆に胸を張って主張しているような感すらあります。

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そういう新しさを出しつつも、ストーリーの雰囲気は「浪花(小島)節」です。

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「○○さん、仇は取ったぜ」
「○○、遅くなったが借りは返したぜ」
など、アツいセリフが、ガンガン出て来ます。
 
気が付けば同じシーンを繰り返しプレイしている自分が居ました。

そして気が付きました。これは、遂にゲームが映画を超えた瞬間を、体験している・・・と。
映画を観ているとき人は常に受け身です。
画面に干渉したりストーリーを止めて考察したり。
また、その場に置いてあるアイテムの設定を深く掘り下げてみたり。

勿論、これはどんなゲームにも当てはまるものではありません。

コマンド選択式を採用していても、フラグ管理がガチガチ過ぎて、閉塞感しか感じないものも多くあります。

小島監督のAVGだからこその演出、世界観、自由度が、そこにはあります。

プレイヤー毎に物語を紡げるAVG。
これこそ、真のオープンワールドなのかも知れません。
 
SNATCHER
この画面・・・どこかで・・・?
 
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誰がこんな事を!許さん!!

・・・気づくと堰を切ったように、僕は「スナッチャー」というゲームの可能性についてかなりの熱量を持って語っていました。

目の前の教授は、僕の言っていることを遮ること無く、最後まで聞いてくれました。

「そんな凄いことが起こってるんですね。ゲームの世界では。」
「そう、そうなんです!」

「で、貴方は、この業界で何をやりたいのでしょうか?」
「・・・・。」

言葉が出なかった。このゲームの素晴らしい点を話せば話すほど、自分に立ち入る隙など1ミリも無いような気がしてきた。

教授は優しくこう続けた。

「貴方の書いた論文は、とても楽しかったし、絵心もありますね。」
「ここは、1つ社会に出てみて、彼らには無い感性を育ててみては?」

「それからデビューしても、遅くないと思いますよ。」




僕は、地元へ帰り内定を頂いていた会社へ就職した。
そこで、妻と出会い現在の家庭を持つに至った。

人生とは解らないものだ。

教授の悪戯っぽい笑顔を思い出した。

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注1:このスナッチャーに付属していたSCCカートリッジですが、BASIC上で使えるようMML(GORRY氏作)が開発され、ベーマガ誌上で音楽の投稿に使用されたり、後に発売されたMSX2用のコナミゲームコレクション(FD版)では、これまで発売したMSX1のソフトをSCC対応にアップデートしたり、地味に活躍するのでした。

注2:
注意・ネタバレがあります!

実は、PCエンジン版のエンディングですが、SDスナッチャー(ゲームのストーリーは全然違いますが)のそれとほぼ同じなのです。
以前小島監督が、ラジオで解説した際に、エンディングについて「以前から決まっていた。」と言っていたのは、正に本当の事だったということが良く分かります。
また唯一PCエンジンと違うのは、もう一人生き残っている人がオチ(?)で登場します。
それは、ご自分の目で確認頂きたいので書きませんが、とても頼もしい方です。

SNATCHER
「??・・・誰の事だい?」

と、言うことはPCエンジン版でも・・・?
やっぱり、監督、「ロシア・激闘編」頼みますよ~!!

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